2019年05月22日
大卒就職率97.6%の陰で -14人に1人は進路未定
育て上げネットでは、若者の問題を個人的問題に帰結せず、社会全体で解決すべきであるという認識を広め、セクターを超えた課題解決のための担い手を増やすことを目指しています(若者支援の「生態系創出」と呼んでいます)。
その一環として、当サイト「育て上げリサーチ」では、若者の現状や若者就労支援について、データに基づく情報を広く一般に届けることで、より多くの人に若者の問題やその支援について関心を持って頂きたいと考えています。そのため、普段若者の支援に関わる方のみならず、「広く社会課題に関心がある」「若者を取り巻く環境を知りたい」といった市民・企業・行政・大学等研究者の方々も読者として想定しています。
平成30年度 大卒就職率97.6% 高卒98.1%
文部科学省と厚生労働省は5月17日、2019年3月大学等卒業者の4月1日現在の就職状況を発表した。大学生の就職率は97.6%。前年同期比0.4ポイント減ながら、調査開始以来2番目に高く、引き続き高水準を維持している。また、先だって5月13日に文部科学省より発表された高校生の就職率は98.1%とこちらも高水準を記録した。
このこと自体は就職活動を行う学生たちにとって、歓迎される状況であろう。
(厚生労働省・文部科学省「平成31年3月大学等卒業者の就職状況」、及び文部科学省「平成30年3月高等学校卒業者の就職状況」より作成)
ただし、ここでいう就職率は就職希望者に対しての就職者の割合のことであり、就職希望でない者は分母に含まれないことに留意する必要があるだろう。
就職がなかなか決まらない学生の中には、就職希望を諦めてしまい、結果的に進路が決まらないまま卒業する者も一定数いる(注)。それはすなわち卒業後に社会的所属を失い、無業状態に陥ることを意味し、その後の無業長期化につながるリスクもある。
「売り手市場」が続き、学生優位と言われる就活市場の裏で、そういった将来不安を抱える学生・若者がいることをデータから見て行きたい。
(注)これ自体は「求職意欲喪失効果」として広く失業者全般で観察される動きであり、日本においては、以下のように定義されている。(厚生労働省『労働力調査に関するQ&A-未活用労働指標とは何ですか?』より)
>「就業を希望していて,すぐに仕事に就くこともできるが,自分に合う仕事がない等の理由で,求職を諦めた者(求職意欲喪失者)」
「自分に合う仕事がない」という字面だけを見ると仕事を選り好みしているかのような印象を与えるが、実際には、いくら受けても受からない、家庭の事情等で希望する条件(勤務時間や勤務地等)に当てはまる仕事がないなどやむにやまれぬ事情もある。
大学生の一般的な就職活動の流れ
データを見て行く前に、簡単に大学生の就職活動の流れを確認する。
通年採用を行う会社も増えてきたとはいえ、大企業を中心とした日本の新卒採用慣行の中では、いまだ最終学年の春頃に面接等実質的な選考を開始する会社が多い。経団連による採用活動解禁日の指針(2021年春入社から廃止、以後政府主導のルール策定予定)によるものでもあるが、インターネットを通じた就活が当たり前となった中で、学生が皆利用する就活サイトの存在によって各社の選考スケジュールが横並びになるという影響もあろう。10月に入ると大企業等では正式に内定を出し、内定式を行う。その頃から、就職活動は「秋採用」と呼ばれ、内定辞退により欠員が出た大企業や、知名度で劣る中小企業なども積極的に採用活動を継続する。3月頃には次年度の新卒採用に向けた会社説明会等が開始され始める中、なんとか4月に入るまでにと追い込みをかける学生も多い(前述の調査では2月時点での就職内定率は91.9%だが、4月の就職率は97.6%に上昇する)。
卒業が近づくほどに減っていく就職希望者
この大学生の就職活動の流れを踏まえた上で、前述の調査(大学学部卒)における就職希望者数の変化に着目してみたい。
同調査では、最終学年にある大学生の就職内定率・就職率を、10月、12月、2月、4月と、1年に4回調査している。注目すべきはこの10月から4月1日までの時間経過の中で、就職希望者数が減っていることだ。就職率算出の分母となる就職希望者の割合は、10月~4月までの4回の調査時点で、79.6%⇒78.9%⇒78.3%⇒76.0%と徐々に減っている(H30年度)。
(厚生労働省・文部科学省「平成31年3月大学等卒業者の就職状況」より作成)
では、就職希望を止めた学生たちはどうするのだろう。就職希望を止めたからと言って、来る4月からの進路を即座に確定させるのは難しいことが推測される。もちろん欧米で言う「ギャップイヤー」のように自身のために就職も進学もしない選択を前向きに取るのであればまだいいが、「卒業までに就職できなさそう」という諦めから、就職活動を止めてしまい、疲弊し、見通しもないまま卒業を迎える学生も多いであろう。
14人に1人が進路未決定のまま大学を卒業する
卒業時点で進学も就職も決まっていない者は、文部科学省「学校基本調査」を見ると、より明らかだ。
(出典:文部科学省「平成30年度学校基本調査 状況別卒業者数の比率(大学[学部])」)
グラフの通り、大学学部卒は8割が就職し、1割が進学する。進学も、就職もしない(アルバイト等含めて)者は7.0%、つまり14人に1人、数にして約4万人存在する(H30年度)。元資料では、進路未決定の注釈として、「進学準備中の者,就職準備中の者,家事の手伝いなど」とある。これらの中には、多様なケースが含まれるであろうが、実際に進路未決定のまま卒業し、そのまま見通し無く無業状態になり、困って支援機関にやってくる若者にも現場では出会う。
有名私大に通うR子さんの例
まさにそのような学生の事例を、当法人の代表工藤の著書『大卒だって無職になる』では紹介している。
―R子さんは都内にある有名私立大学に、自宅から通っていた。(中略)まじめなだけに大学時代の成績もよく、大学のキャリアセンターが主催する就職セミナーにもきちんと出席して、就職活動の準備は万端のはずだった。ところが……。
最初にめげてしまったのは、はじめて行った合同の会社説明会だった。とにかくすごい人の群れ。それを見ただけで、R子さんはすっかり自信をなくしてしまった。
(中略)
まじめなR子さんは、就職活動をあきらめようとは思わなかった。なぜなら、みんながやっているフツウのことだから。大学を出て就職できないなんて恥ずかしいことだから……。十数社にエントリーシートを出すと、大学名や成績が評価されるのか、たいてい第一次面接に進むことができた。ところが、面接がからきしダメだった。
(中略)
「R子さんのできる範囲で、まずはアルバイトからはじめてみるつもりはないですか?」四月一日から自分の所属がなくなるとおびえていたR子さん。彼女がタイムリミットに設定していた四月一日が近づいていた。「そうですね」R子さんは納得したかのように見えた。
ところが、次の個人面談の日、R子さんは前言を撤回。「もう少し、プログラムに参加して、正社員を目指したい」と言う。聞けば、親御さんが、R子さんのアルバイトに大反対しているのだそう。「四年制大学を出て、アルバイトするなんてみっともない」それが両親の反対理由だった。R子さんは四年制大学を卒業した女子。「バリバリとキャリアを重ねる方向で働くならともかく、そうできないなら結婚してしまえばいい」と言われたそうだ。
その後、R子さんは一般的な「就活ルート」とは異なる形で、ある小さな工場の事務に、仕事体験・インターンを経て徐々に職場に慣れつつ就職していった。
卒業後に使えるサポート
新卒採用という流れに乗らなかった、乗れなかったとしても、卒業後就職するにあたり使えるサポートはいくつも存在する。ハローワークはもちろん、若者の就職支援をワンストップで行うジョブカフェ、個別の求人紹介ではなく就活に向けた面談や講座受講等ができる地域若者サポートステーションなど公的な支援もあれば、最近は20代向けや既卒向け就職サイトなど民間のサービスも充実してきている。
すぐに生活に困るような状況でないならば、差し当たり期限を決めて働く以外の活動(ボランティア・留学・旅行・勉強・趣味等)を楽しむ選択肢もある。
社会の側に問われているもの
そもそも若者たちを横並びの「シューカツ」に駆り立てている新卒重視の採用慣行についても、若者によってメリット・デメリットや向き・不向きがある。
当然、進路未決定のまま卒業する若者は、中学・高校や専門学校や大学院でもいる。「就職氷河期世代」の問題では、新卒採用時に安定した職に就けなかったことの後々へのキャリアへの影響も最近よく論じられている。また、経団連会長による「終身雇用を前提にすることが限界になっている」という発言もあった。産業構造や労働・雇用環境の変化の大きい時代において、私たちがどのような社会を描くのかが問われている。
少なくとも、従来通りの新卒一括採用以外にも色々なやり方で仕事を得たり、生計を立てたり、働いていなくても社会に関わったりできる場が社会に用意してあること。家族・友人・地域・企業・学校などの社会の側が、困っている若者にも、安心して挑戦できる関係性や場を提供し続けること。そういった草の根の活動、関わりを継続することは若者自身の未来を拓くとともに、特に高齢化の進む日本社会にとっても大きなプラスとなるであろう。
(執筆:育て上げリサーチ)