2019年12月27日

問題を起こして高校中退した彼を待っていた「大人」とは


前々回の記事で、高校生の不登校と中退の現状、前回の記事では「その後」に待つ困難について見てきた。

不登校や中退の背景には、家庭環境も含めた多様な困難さも存在しており、学校内だけで対応しきるのは難しいのが実情だ。また、困りごとを抱え込む前に予防したり、早期に解決のための資源につながっておくことも非常に重要だ。

そこで、高校という場所をハブにして、様々な「大人」たちが中退・不登校予防や、「その後」の困難に対応しようという取り組みを進めている。

 

高校生と「若者支援」


内閣府『子ども・若者白書(令和元年版)』では、「居場所づくりを通じた教育と福祉の連携における大阪府立西成高校の取組」の例を紹介している。

-「となりカフェ」は「家でも学校でもない第 3の居場所」として西成高校内で運営されているもので、教師でも親でもない「第 3の大人」であるスタッフとの交流を通じて生徒との信頼関係を構築することで、生徒の不登校や中退を予防しようとする取組を支援するものである。
普段接している「指導する立場の大人」である教師とは異なり、悩みに寄り添い「話を聴いてくれる大人」と接することで、生徒は徐々に表情が柔らかくなり、欠席の日数も減ってくる。「となりカフェ」利用者の中退率は、同校全体の中退率に比べて4分の1程度とかなり低いという。
(中略)
スタッフは、「となりカフェ」で発見した課題を教師やスクールソーシャルワーカーなどと共有するほか、生徒が希望すれば、支援が必要な生徒を学校外の福祉機関に橋渡しするなど、福祉と教育が連携する中間支援的な役割も果たしている。-

このように、学校の先生だけでなく、学校外の様々な大人が関わることで、社会全体で生徒たちを支えていく試みが進められているのだ。

この新しい取組では「学校と学校外の機関との連携」が重視されている。それには、教育のことは学校の先生が、福祉のことは福祉の専門家が、というように各専門分野がチームで生徒に向き合えるというメリットもあるが、それだけではない。
「中退後に待ち受けるリスク」や「学校には頼れない・頼りたくない不登校」に対して、生徒やその家庭が頼れる先を用意することも一つの主眼だ。
つまり、中退や不登校等により学校を離れた時、その生徒が友人内や家庭で孤立してしまう、あるいは、反社会的なつながりを持ってしまう、一方、家庭内では保護者もどう関わっていいか悩み、(それまで先生に相談していたとしても)相談先がなくなってしまう、という事態を避けることも可能になる。

 

育て上げネットの事例


育て上げネットにおいても、高校を中心とした教育機関との連携の中で、その「中退後リスク」に対応した一つの例を紹介したい。
その生徒がいた高校との連携で窓口となっていた支援スタッフはこう振り返った。

 

-その生徒は分かりやすく言えば、「問題行動」の見られる生徒でした。
高校の先生から「ある1年生の男子生徒について困っていて、相談したい」と電話があり、学校を通じた調整の上、その生徒の親御さんとの面談から支援は始まりました。

-親御さん曰く、「遅刻、無断欠席が多く、学校への提出物などもよく忘れていて、困っている。本人に遅刻・欠席について注意したり、進級や卒業について考えているのか話してみたりしても、イライラした様子で、もう何も言っても聞いてくれないし、言うこっちも疲れてしまう。」
そこで、家庭でのお子さんとの接し方などについて提案したり、何かあった時には電話で相談を受けたりなど対応していました。
しかし残念ながら、数ヶ月後、学校の人間関係でトラブルがあり、中退することになったと連絡がありました。

-その生徒が信頼を寄せている先生からの後押しもあって、中退後はすぐに私たちの支援機関に来所してくれました。
来所した彼はとても明るい印象で、エネルギーが落ちている、というよりは、持て余しているという印象でした。今までアルバイト含め仕事経験や仕事について考えたことはなかったものの、仕事への意欲は高い状態でした。

-そんな彼には「習うより慣れよ」でどんどん仕事体験・職場見学に参加を勧めました。
規則的な生活リズムを整える必要もあったので、定期的な来所を促したら、最初の一か月はほぼ毎日のように来所していました。
やはり時折無断欠席などがあったりしたため、丁寧に「なぜ遅刻や欠席の際に連絡するのか、この場合はどんな困りごとが起こるのか」をきちんと説明していくようにしました。

-そうこうして、中退・来所してから3ヶ月。職場体験先の一つ、地元のクリーニング企業での採用が決まりました。
就職してからも定期的に会いに行ったりしていますが、半年たった今も元気に働いています。遅刻癖はそう簡単には直らないようですが(笑)

-先日久しぶりにうちの支援機関に顔を出した彼はこう言っていました。
「学校も本当は辞めたくなかった。だから、いざ中退が決まったら何をどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。そういうときに、先生から紹介されてここに来て本当によかった。楽しかったし、通うところが出来て、やることも目標もできた。もしあのまま家にいたらきっと今でもろくなことしていないんじゃないかな(笑)」

 

軽い口調だが、彼の言葉は重たい。お金や仕事、居場所に困った時、手を差し伸べる「大人」が必ずしも助けになろうという人ばかりではない。「稼げるバイトがある」というネット上での誘い文句から、特殊詐欺の「出し子」「受け子」などの犯罪に手を染める例も多い。

この事例では登場人物がそれぞれ一人の生徒のため、「大人たち」がいわばチームとなって動いている。問題を発見した学校の先生が自分一人で解決しようとせず、保護者の話を聞き、外部機関に相談し、家庭では保護者が基盤として支え関わり、その基盤の上に、外部機関の支援スタッフが専門的な生活相談・キャリア相談を行い、地元企業が職場体験等の場を提供し、人材育成しながら雇用し、その後も自立に向けて継続的に支援スタッフと企業が連携して当人に関わる。

「学校だけでなく、社会全体で生徒を支える」という一つのあり方がそこにあるように思う。

 

(執筆:育て上げリサーチ)

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