週刊東洋経済 の巻頭特集「G型・L型大学論争の深層」で、 育て上げネット 理事長・工藤啓が取材いただきました。
(巻頭特集) G型・L型大学論争の深層
大学が職業訓練校になる!? 文部科学省の有識者会議で、仰天する構想が飛び出した。だが学生を取り巻く厳しい環境を知ると、一笑に付すこともできない。大学と職業教育をめぐる深層を追った。
「G型・L型、そして職業教育 私はこう考える」
● 本田由紀 (東京大学大学院教授)「研究と実学には二分できない」
日本の大学と企業の間に存在してきた関係を、私は「赤ちゃん受け渡しモデル」と呼んでいます。職業に関連する具体的な知識・技能をあまり身に付けていない、職業人としては無防備な赤ちゃんのような若者を、卒業までは大学が大事に抱える。そして入社を境に、企業が若者を「後はこちらで育てます」と引き取る。ところが近年、この新卒一括採用に乗れない若者が一定数出てくるようになりました。この結果、赤ちゃんのままで地べたに投げ出されるような人も出現しています。
大学にとって、職業教育機関という、ある種ワンランク低く見られているものに転換することへの抵抗感は想像以上に強い。現状では、大学教育の職業的意識を高めるという課題がはかばかしく進展していないのは事実です。しかし、GLモデルには私は賛同しません。アカデミックと実学、グローバルとローカルに二分することなどできるのでしょうか。
● 工藤 啓 (NPO法人育て上げネット理事長)「スキルではなく自信が重要だ」
実学は重要な要素ではあります。働く自信を引き出す効果があるからです。 マイクロソフトと提携 して、利用者にオフィスソフトの基本を学んでもらったことがあります。基礎の基礎にしかすぎない水準で、このスキルそのものが就職への決定打になるわけでは決してありません。しかしこのスキルにNPOによる相談を組み合わせることで、就職率はぐんと上がりました。
地方の中小企業が求めている人材像は、スキルの有無とは必ずしも関係がありません。中小企業が求めているのは「あいさつがしっかりできて、わが社に腰を据えて働く意欲のある人」ということが少なくありません。こういう企業と学生を橋渡しするために、ドイツのデュアルシステム(学校に通いながら企業で職業訓練を受ける制度)のような制度が日本でも本格的に整備されるとよいと思います。
(2015年1月31日発行 東洋経済新報社「週刊東京経済」より抜粋)