ジョブトレ・ITコース座談会(その3)
無業だった自分たちの今と、無業のあなたへ
座談会(その2)では、ジョブトレ・ITコースのホントのところを語ってくれた卒業生のみなさん。
みなさんは、現在、どのような仕事に就いているのでしょうか?
みなさんの「今」をお聞きするとともに、今、無業の若者へメッセージを送ってもらいました。
左から
岩下 明夫(いわした・あきお)さん 36歳 ジョブトレ・ITコース第4期卒業
安富 仁志(やすとみ・ひとし)さん 30歳 ジョブトレ・ITコース第3期卒業
中村 健(なかむら・けん)さん 21歳 ジョブトレ・ITコース第5期卒業
村木 昌司(むらき・しょうじ)さん 22歳 ジョブトレ・ITコース第6期卒業
黒川 武(くろかわ・たけし)さん 31歳 ジョブトレ・ITコース第6期卒業
プロフィールは取材当時のものです。
IT企業に就職 IT企業以外に就職 どちらもアリ
——これまで2回にわたって、ジョブトレ・ITコースに入るまで、そして入ってからのことをお聞きしてきました。
——みなさんは卒業後、何をされているのか、簡単に教えてください。
中村 ITコースの卒業生としてここに来ているのに、今はITにまったく関わっていないんです(笑)。もともとこちらに参加しながら、書店のアルバイトをやっていたんですが、それを今もつづけています。あとは、ITコースのインターン先だったITサービスのベンチャー企業とご縁があって、かけもちでアルバイトをやらせてもらっています。IT系企業ではあるんですけれど、ITにはまったくふれない立ち位置をなんとか死守していて(笑)、イベントの企画などをやっています。
「“自分はITに向いていない”ということがわかるためにも、ジョブトレ・ITコースは必要だった」という中村さん。現在は、IT企業内で「IT以外の仕事」を行っている。
村木 僕は、創業してまだ8カ月ほどのベンチャー企業でアルバイトしています。
ある会社から「このホームページを作ってください」といった依頼が来たときに、案件ごとに手伝う形で、仕事をしています。ちょっと特殊だと思うんですが、在宅でWebサイトを作っています。いわゆるテレワークですね。ビジネス向けの「Slack(スラック)」というチャットを使って、・連携を取りながら作業を行っています。ただ、こうした形がこれからもつづくかどうかはわからないと、社長からも聞いているので、また別の会社に転職するかもしれません。
安富 私は、交通関係の機器を作るメーカーに勤めています。具体的に言うと、電車のホームにある非常停止ボタンなどの中身を作っています。図面を見ながらプリント基板に、加工した部品を乗せて、ハンダでつけていくなどといった仕事ですね。もともと大学では電気工学を専攻していたので、IT関係やパソコンを使う仕事でなくても、電気関係もアリだなと思ったんです。
パソコンを使う仕事ではないが、広い意味でのエンジニア職に就いた安富さん。
黒川 私は、ITコースのインターン先企業で、ITコース卒業後もそのままインターンをさせていただき、アルバイトでいろいろな現場に行っていたのですが、先日ようやく契約社員になりました。
一同 おぉ、おめでとう!(拍手)
黒川 今は、PCキッティングの仕事をしています。企業がお客さまで、お客さまが使うパソコンを企業のなかで使えるように、セキュリティ関係のプログラムや、業務によって使うアプリケーションを、何十台、何百台もインストールするという仕事です。いわゆる初期セットアップ作業というものです。
岩下 私も、ITコースのインターン先企業と縁があって、契約社員をやっています。働きはじめて1年ほどになりますが、現場を転々としています。今は、物流関係のシステムをテストする作業を行っています。
——IT企業のなかには、お客さまである企業に派遣されて作業を行うところも多いですよね。黒川さん、岩下さんは、いろいろな現場に派遣されて、大変ではないですか?
黒川 最初は、家を出なければならない時間が現場によって変わってくる大変さはありましたけれど、まぁ…繰り返していくうちに慣れてくるものですね。
岩下 自分も外に出るのがつらい時期がありましたが、ジョブトレに通って、徐々に慣れていったというところがあります。
客先の企業や現場に出向いて仕事を行っている黒川さん(左)と岩下さん(右)。ジョブトレに通うことで体を慣らしていたので、早く家を出なければならないときも苦にならないと言う。
「ITに向いていない」ということがわかることも大事
——今、みなさんはそれぞれの職場で働いていらっしゃいますが、ITコースでやったことが役に立っているということは何かありますか?
一同 (首をかしげながら苦笑)
黒川 先ほど言った話と通じるかもしれませんが、昼夜逆転の生活をしていた時期がありました。それを昼型に戻せたというのは、プレップやジョブトレに通うという経緯があったから。だからこそ、朝早く出なければならないような今の状況でも、そこまで苦もなく過ごせるというのはありますね。
岩下 自分も同じです。ずーっと昼夜逆転で生活していたので、ジョブトレで生活リズムを取り戻せたということはありますね。
安富 私は、仕事がIT関連ではないので、学んだことがそのまま何かに生きているということはないんですが、ITコースで学んだ「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」は、今仕事していても大事だなと思います。あとは、やっぱりコミュニケーションですね。
作業するときには、設計図のような図面を見ながら部品を組み立てていくのですが、初見だとわからないものが多いので、先輩の方に聞くことが多い。そういうときに、どういう言い方したら伝わるか。ITコースでの体験が役に立っている感じはあります。
中村 自分にとっては、職種的に「IT系を選ばない」と自分で選択できるようになったことが大きいですね。。ITコースに参加して、「自分は集中することが苦手だ」ということがわかったので、「自分はIT系に向いていない」と理解できた。たしかに最初はIT系の仕事がしたかったけれど、「やりたいこと」と「できること」はちがうとはっきり認識できました。。
もし、ITコースに来ていなかったら、いまだに「IT系の仕事がやりたい」と思ってふらふらしているかもしれないし、実際にIT系の仕事に就いて、とんでもないことをやらかしているかもしれない(笑)。。
自分の選択肢を狭められたという点では、すごく役に立ちました。
昔の自分と同じ状態に今あるあなたへメッセージ
——最後になりますが、昔のみなさんと同じように、今、働くことができずに悩んでいる方、ひきこもっている方が、このサイトを読んでくれていると思います。そうした方々に、先輩として、何か言葉をかけてもらえますか?
岩下 うーん、そうですね。うまくは言えないけれど、「なんとかなる」と言いたいです。
そのつらさは、一歩踏み出せないつらさだと思うんです。
自分もそうだったのでよくわかります。小学校のときから不登校でずっと家にいて、その後も働けないまま、10年以上その状態でした。そうなると、「自分の人生なんてもうどうしようもない」としか思えないんです。正直に言うと、サポステの存在もだいぶ前から知っていたんですよね(苦笑)。でも、行けなかった。
「座談会その1」でも言いましたけれど、やむにやまれず、どうしようもなくなって、覚悟を決めて行ってみたら、なんとかなったんです。とにかく一人で悩んでないで、誰かに相談する。すると、きっとなんとかなります。人間不信になっているときには「とても無理だ」と思うかもしれないけど、世の中、そんなに悪い人ばかりじゃなかった。まさか自分が働けるようになるとは思いませんでしたし(笑)、こんな人間でもなんとかなったので、きっと大丈夫です。
黒川 僕も「座談会その1」で少しふれたんですが、大学に行きづらくなった時期があります。
大学の研究室に配属されてから、周りと自分を比較するようになって、その研究室に顔出せなくなってしまった。そこから、さらに卒業するまでに4年かかったり……(笑)。大学に行くこと自体に恐怖感があって、大学の門の前までは行くんですけれど、そこから引き返してしまうという時期がけっこうありました。でも、研究室の教授がすごくいい方で、最後まで面倒を見てくれて、なんとか卒業させてもらえました。
なのに、その後もやっぱり自信が持てなくて……。就職活動はしないままでした。
親の誘いで、「育て上げネット」に相談に来て、プレップに参加することになるんですが、その前に自分なりに「なんで自分はこうなのか」ということをネットで調べました。「自分はADHD(発達障害の一つで注意欠陥多動性障害のこと)なんじゃないか」とか、いろいろ気になっていたことがあったので、まず自分が気になっているところを自分なりにやらせてもらって、その上でまだ「動きづらい」ということで、親からすすめられたところに来たんです。つまり、自分がまずやりたいと思っていることを優先することができ、そこで納得できたので、親のすすめに乗ることができたというわけです。
「育て上げネット」のプログラムを受けていると、スタッフが自分をものすごく肯定してくれます。自分ひとりで考えているとどうしても否定的なものの見方になっていくし、親や知り合いと話していても「そんなことまで、わざわざ肯定しなくてもわかってるだろう」と何も言わないのが普通です。
普通の生活のなかで自分を肯定してもらえることはとても少ないけれど、ここでは、本当に些細なことも肯定してもらえる。それが、今の自分の自信につながったのではないかなと思います。
長くなりましたけれど(笑)、昔の自分のような状態に今置かれている人に対しては、「物理的な一歩を踏み出してほしい」と思います。本当に物理的な一歩……たとえば玄関から出るだけでもいい。ダメだったら、引き返せばいいんです。調子がよければ、二歩目を踏み出す。「家から出た以上、どこかに行かなければならない」ではなくて、「引き返してもいいから、行けるところまで行ってみよう」でいいのではないかと思います。
過去の自分を振り返りながら、真剣にメッセージを考える岩下さん(右)と黒川さん(左)。言いにくいことも赤裸々に語ってくれた。
安富 私は、自分からアクションを起こせなくても、まわりの意見を受けてからのスタートでもいいと思います。無理に何かやろうというのともちがって、何かきっかけさえあれば変わることはできます。自分から積極的に動き出せなくても、話を聞いたり、現場の風景を見たりするという、情報を受け取ることだけでも、それも十分スタートになる……と思います。
自分も親に誘われたときは本当にイヤでした(笑)。無視することもできたと思う。でも、一般的に正しいとされていることが、強迫観念のように自分のなかに倫理観としてあって、「いつまでも逃げられるものじゃない」という思いがありました。いつかはやらなければならない。今、きっかけがあるのなら、ここでがんばってやってみるか……という感じでした。
自分ではできないから、背中を押してもらったり、手を引いてもらったりしながらでいい。自分からは勇気を出すことができなくても、人からの後押しをきっかけにすればいい……そう思います。
「親からの後押しはちょっと強引だったけど、きっかけにはなった」と言う安富さん。「自分ひとりでは踏み出せなかった」と語ってくれた。
中村 みなさんが具体的なことをおっしゃってくださったので、自分は心理的なことを言いたいと思います。
「ここに出てくる人たちは成功したから、こういう場所に出てくるんでしょ?」と、これを読んでいる方々はそう思っているのではないでしょうか。ここに来る前の自分はそんなふうに思っていました。もっと言うなら、「この人たち、宣伝のためのサクラでしょ?」ぐらいに考えていました(笑)。
読んでいる方は「こういう場所は自分とはまったくちがう場所の話だ」と今は思っているかもしれないけれど、実は今いる自分とすごく近い場所にあって、ジョブトレに来て、ただやるべきことをやっていたら、自然とこうなるんです。自分は、ごはんを作って食べたり、普通に生活していくことと、働くことはさほど遠くないということがわかってきました。だから、この情報を「自分とはちがう」と突っぱねてほしくないなと思います。
自分の場合、座談(その1)でも話しましたが、セクシャリティの問題から、どうしてもスーツを着ることができません。スーツが着られないなら就活はできないと思い込んでいたし、何かしら線引きされるんじゃないかとおびえていたけれど、ここでは「OKですよ」とあっさり承諾してくれて、「スーツを着ないという方向性で行きましょう」と言ってもらえた。
自分がすごく問題視していることって、自分のなかでふくれあがってしまうけれど、意外となんとかなるかもしれないと思うことができました。
村木 アルバイトをするか、サポステに電話するかの二択を迫られたときには、アルバイトをするのは怖かったので、サポステに電話するしかなかった。でも、そこから、パソコン講座を経て、ジョブトレにたどりつくことができました。
僕がこぼす愚痴に、スタッフの方はつきあってくれて、それでちょっと気持ちが楽になりました。今、中村さんも言ってくれたように、自分のなかの問題もなんとかなるかもしれないと思うことができました。
あのときの自分のように悩んでいる方に伝えたいことは、きっかけというか、足がかりとして、ジョブトレ・ITコースはなかなかいいのではないかということです。黒川さんが先ほど言ってくれたみたいに、ダメだったら辞めちゃえばいいし(笑)、とりあえず試す場所としてはアリなんじゃないかなと思っています。
「自分の心のうちをスタッフに聞いてもらえて、ちょっと楽になった」と言う村木さん。「人に悩みを話す」ことで心を軽くすることができるのかもしれない。
——ありがとうございました。
今後も、働いていくなかで、迷ってしまったり、判断しにくいことがあったり、頭のなかを整理したいと思ったら、ぜひ相談しに来てください。そんな利用の仕方もあると思います。
みなさん、本日の親睦会、おおいに楽しんでください。本当にありがとうございました。