育て上げネット

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利用者の声

コミックエッセイ発刊記念

大学中退後4年間ひきこもってしまった息子が 正社員として就職するまで。「中編」

洋輔くん(仮名)がひきこもってから4年が経っていた。橋口香織さん(仮名)は夫とともにとある講演会へ出かけ、そこで[結]と出会うことになった。「息子が動けないなら、自分が動かなければ」……。香織さんは相談員のアドバイスに従ってみることにした。

[結]の相談員の提案を受け入れて、
まずは家事分担を息子にお願いしてみた。

【香織さん】
「なんとかしなくてはならない」と思ってはいても、何をしたらいいのかわからなかったとき、たまたま自治体の広報誌を見ていたら、斎藤環先生の講演会のお知らせが載っていたんです。
見た瞬間に「これはウチのことだ!」と思いましたね。
それで、夫婦そろってさっそく講演会を聞きに行ったんです。

斎藤先生の講演は本当に目からウロコのお話ばかりでしたね。
最後に、斎藤先生が「親と家族だけで外に出られた人はほとんどいません。第三者がいないと無理です」と言ったんです。

そこで講演会後、各支援団体のブースを回ってみたんですけれど、通所型の支援機関へ洋輔が行く気になるとは思えませんでした。
でも、育て上げネットの[結]だったら、まずは私から行ってみることができる。
子どもは動かせないかもしれないから、まずは私が動いてみよう……そう思いました。

以降、香織さんは、茶話会で同じ悩みを抱える母親同士でおしゃべりし、月に一度の面談を受けるようになった。

【香織さん】
何をしていいかまったくわからなかったので、相談員の森さん、森本さんが提案してくださる通りに、できることはすべてやるようにしました。

たとえば、「家事を分担しよう」と提案されました。
洋輔が中退してからは、洗濯をお願いすることがちょくちょくありました。でも、ごはんを作ることができるのかどうかわからなかった。ほかの[結]の仲間もチャレンジしていると聞いて、ダメもとで思い切って頼んでみました。
そしたら、ちゃんとできたんですよね。驚きました。

それからは、週に一回、メニューを決めるのも買い物するのも全部やってもらうことにしました。
【洋輔くん】
母が家事を任せてくれたので、自分としてはちょっと楽になりましたね。

ひきこもってからはずっと自分のことを「無駄飯食い」だと思ってきたけれど、家のなかで役割があればそう思わなくてもすむ。何もしないよりは気が楽になりました。
「ごはんを作ってるんだから、実働分くらいは休んでいても文句は言われないだろう」と自分の中で勝手に思うことができました。

「2カ月間は待つ。でも、その期間内にできなければ
 一緒に行ってもらいたいところがある」と約束した。

次の相談員からの提案は「期限を区切る」こと。橋口さんご夫婦は見守り続けるのをやめ、期限を区切って本人に行動を促していくという決断をすることになった。
【香織さん】
森さん、森本さんから、「これまでずっと放っておいたわけだけど、もう放っておけないよね」というお話をいただきました。そろそろ期限を切って行動を促すよう提案されたんです。

いつ言おうかなと夫と相談していたんですけれど、たまたま車中でそんな話になったんです。
夫が「いつまで待てばいいのかな?」と自然な形で切り出してくれました。
でも、洋輔は即座に「永遠に」と言ったんです(笑)。
それで、こちらも思わず笑っちゃって「それはダメでしょ?」と言うと、自分から「2カ月かなぁ」と答えました。

それで、2カ月間でアルバイトを探すことになり、私たちはその期間だけ待つことになりました。
【洋輔くん】
期限を区切られるのは苦痛でした。決められないのに決めなきゃならない、しかも期限は決まっているとなると、それがたとえ1年先でも3年先でも、期限が決まった段階から、まるで締め切り直前のような心境になるんです。

「明日までに決めなくちゃならない」という切羽詰まった気持ちが2カ月間続きました。

でも、今思えば、やむを得ないなぁという感じですね。期間を「無限」に設定していたら、ずっと無限に進まなかったでしょうね(笑)。
【香織さん】
彼の動きを待っていましたが、何もできていないことはわかっていました。

だから、2カ月経ったときにどういうふうに声をかけるか、森さん、森本さんに相談しました。
私は、言いたいことを文章に書いて、練習しましたよ(笑)。洋輔がこう返してきたらこう言おうとか、シミュレーションもしていましたね。
いざ言うときにも、すごくドキドキしていました。

「がんばってできなかったことは本人が一番つらいよね。今までやろうと思ってきたことはわかっているけれど、ずっとできなかったなら、自分だけじゃなくて人の助けを借りてもいいんじゃないの?」
言ったのはこんな内容のことです。

それで、洋輔は、とりあえず私たちと一緒に育て上げネットに行くことに同意してくれました。
【洋輔くん】
当然、そんなところには行きたくなかったですよ(笑)。

行きたくはないんだけど、それを断ったら、「じゃあ、どうするの?」と言われるわけです。
そんなことを言われるぐらいなら、とりあえずは一回だけ行ってみて、親の言うことを聞いたというポーズを作り、また家に戻ろうと思っていました。

でも、面談の結果、PC講座に参加することになったんです。
「イヤだ」と言っても、「代わりに何かしろ」と突きつけられる。対案を出せないので仕方ないという感じでした。これにさえ参加していれば親も満足するだろうという感じですね。週に二回、一カ月くらいの講座でしたけれど、我慢してここに通えばそれ以外の五日間は文句言われず自由にできる……そう思っていたわけです。

後編に続く…

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