就労支援という言葉には明確な定義がなく、ひとによってその使い方はバラバラです。
ただ、30年、40年も前から、特に青少年支援と呼ばれている(た)分野では、
「目の前の若者や子どもに合わせた仕事を作る」
それに対して一緒に悩み、チャレンジし、伴走していくことだったと僕は理解しています。しかしながら、時代が進むにつれて、その意識は徐々に薄れ、気がつくと「雇われる」「就職する」支援に最適化されてきたように思います。
そうした、元来の支援の意図に根ざした取り組みを改めて行おうとするなかで、「正社員」や「アルバイト」として働くことを否定し、より難易度が高いフリーランスや起業の文脈と誤解されることが出てきたので、改めて書くことにしました。
柔軟な支援を再構築する
ここ数年、育て上げネットでは「働く」支援を拡張する取り組みをしています。それは、働くことを希望しながらも、そこに至るまでの道程が長い若者に対して、課題解決のための相談やワークショップ、職場体験以外のコンテンツを作ることです。
例えば、絵を描くことが好きな若者がLINEスタンプを製作して出してみることや、ピアスを作れる若者がフリマアプリで実際に出品してみるようなことを指します。もちろん、近いものはこれまでもありましたが、インターネットが新しいプラットフォームを生み出し、誰もが手軽に市場に出す、ということができるようになりました。
課題は少なからずあるものの、特に若者とかかわる側が、それらを活用した経験が必ずしもあるわけではないため、いまはどのような機会があるのかを整理し、職員が自らチャレンジしながら、どういう仕組みなのか。どのようなリスクがありそうか、そういうう知見を蓄積しています。
そのプロセスのなかで、実際に若者と勉強しながらやってみる機会が増え、また、一緒に販売サイトを立ち上げてみたりしています。
そこでよく質問を受けるのが「それで食べてけるのか」「安定した収入になるのか」という問いですが、回答は「わかりません」と言うしかありません。
むしろ、正社員やアルバイトをするほうがずっと容易だと思います。それくらい厳しい道です。
"拡張"がもたらす効果(仮説)
この取り組みを推し進める背景として、社会の流れとともに拡張されていく「働く」という行為を、若者自身が「経験した」ものにすることで、これから長くキャリアを歩む若者にとって経験となり、いつか選択肢としてうまく使えるようになるかもしれない。そのきっかけを作ることがひとつ。
もうひとつは、自己肯定感や自己承認が低い状態に置かれてしまったことで、自尊心が深く傷ついていたりする若者が少なからずいます。「働く」を目標にしているけれど、具体的な就職支援のプロセスに入る前の助走段階にあることです。
いま、社会的には居場所の必要性が叫ばれ、それは本当に必要なものだと考えています。就職支援がさまざまな形で行われていますが、それに加えて、この居場所と就職支援をつなぐような役割をになうのが就労支援。
新しい「働く」支援がよい効果や結果につながる若者もいるのではないかという仮説を持っています。
"売る"体験が「働く」につながった
実際、アクセサリーを販売し、買い手が多くついた女性は、それをきっかけに、なかなか勇気が出なかったアルバイトを探すことに動き始めています。たまたま彼女はそうだっただけかもしれませんが、ひとりの女性によい影響があったのであれば、同じような気持ちにある若者もいるのではないかと思うのです。
このような考えや思いを持っている支援者はいらっしゃるのではないでしょうか。昨年、大阪で若者支援に取り組む友人と会ったとき、まさに同様の認識を持っていたことに、驚きと喜びを感じました。そしてすぐに大阪で小さな集まりを作り、支援者が集まってチャレンジした結果を共有し、新しい発見を伝え合ってきました。
「働く」の拡張を目指して
この小さなチャレンジで得られた知見を、同様の想いを持つひとたちと共有したいと考え、9月13日(金)には、大阪でイベント(下記参照)を開催いたします。もし、古くて新しい就労支援、「働く」支援の拡張についてご関心ありましたら、ご参加ください。
若者支援の新しいカタチ - 「雇われる」をゴールにした支援の限界を超えて
2019年9月13日(金)19:00-21:00(大阪)
育て上げネット
理事長 工藤 啓