好きなときにおいでよ、いつでも待っているよ
社会全体で孤立・孤独の問題が大きく語られるようになってから久しいですが、政策的スポットライトが当たったことで、さまざまな取り組みがなされるようになっています。
改めて「居場所」というキーワードが目にも心にも留まるようになったのではないでしょうか。公的な予算がついたり、従前からのボランタリーな活動のなかで、多様な居場所が作られています。
40年以上前、私が生まれる前から両親が経営していた私塾で、地域に居場所がないさまざまなひとたちが、両親の塾に、私の家庭に、僕の部屋に集まり、暮していました。地域にも学校にも、職場にも家庭にも居場所がない「おにいさん」「おねえさん」と毎日遊んでもらっていたのが、私の原記憶、原体験です。
たくさんの居場所ができたことで「好きなときにおいでよ、いつでも待っているよ」という暖かな会話がここかしこで生まれていると思います。育て上げネットにも、たくさんの若者、子どもたちが来ています。ゲームをしたり、勉強したり、仕事へのスキルや経験を身に着けたり、笑い声も絶えません。
しかし、そんな「居場所」で待ってくれるひとたちに、好きなときに会いに行くことすらあきらめざるを得ない若者が存在することも知ってほしいです。
交通費があればあきらめることはなかった
育て上げネットでは、応能負担の考え方のもと、さまざまなプログラム参加への費用負担はご自身やご家庭の経済力に依存しています。
もちろん、費用負担ができる若者ばかりではなく、創業から20年間で、家庭の経済力の落ち込みが本当に大きいことを実感しています。
だからこそ、寄付などを原資に無料でプログラムに参加していただける努力を続けています。いまや「居場所」は、実在する空間のみならず、インターネット上の空間でも設置されましたが、誰もが自由に参加できるわけではありません。
ある場に行くためにお金がかかるからです。物理的に居場所へ行くには交通費が、インターネットを使うにも通信回線の費用がかかります。これらは一般的に「実費負担」と呼ばれるものであり、自分で負担することが「当たり前」として定着しています。
「実費負担の原則」
これが大きな壁となって、居場所参加への壁となっています。
以前、電車やバスを含めて自宅から育て上げネットのプログラムに参加するには、片道1,000円かかる場所に住んでいる女性がいました。ご家庭の経済力が厳しいというわけではなかったようですが、ご両親から「女性は無理に働かなくてもよい」と言われ、ご本人の働きたい希望をかなえるには、家庭のサポートが得られませんでした。
プログラムの費用は寄付によって無料になっていても、交通費が出せません。交通費があればあきらめることがなかった「働きたい」気持ちは、彼女のなかで実現不可能なものとして冷たく、重たくのしかかりました。
週に何日も通えばそれなりの金額になります。そのとき、育て上げネットでは、彼女に対して交通費を支給することを決断しました。そして、女性は3か月ほどで就労し、笑顔を取り戻しました。
交通費は自己負担は「当たり前」でない
私たちの周りは、実費負担の原則が当然で、「交通費くらいは自分で出すのが当たり前」という認識で覆われています。本当にそうでしょうか。本当にそれが「当たり前」でよいのでしょうか。
対人援助機関は、「適切な機関につなぐ」という表現をよく使います。目の前の困っている方の問題を解決できる専門機関や専門家と連携をして、みんなで応援していく、とても大切にしているスタイルだと思います。
一方、私たちはそのスタイルを大切にしながら、一方で苦悩も抱えています。どこか別の場所にある施設、少し離れたところにいる専門家を紹介することは、そこまでの交通費を出させないといけないからです。
そこに行ければ少しは痛みが和らぐかもしれないが、そこに行ってもらうための経済的な痛みは負ってもらわないといけないのです。わかっていながらも、さまざまな制約により、その個人のための費用を肩代わりできません。
育て上げネットでは、交通費の自己負担が「当たり前」の壁を乗り越えたいと考えています。若者が参加したいという気持ちを大切に、その希望の実現を後押しできるようになりたいと思っています。
私たちは、経済的に厳しくても、収入や貯金がなくても「大丈夫、交通費や通信費はサポートできるよ」と、若者を応援するための取り組みを行います。
貧困・困窮状態にある若者の「実費」を肩代わり!継続支援のお願い
毎月1,000円から継続的に若者の交通費・通信費などを支える寄付者を募ります。交通費など実費負担は「当たり前」ではありません。むしろ、実費についても支え合える社会の「当たり前」を作ります。
若い世代の希望をかなえ、可能性を一緒に応援してください。よろしくお願いいたします。
育て上げネット
工藤 啓