対面できないことが生み出した選択肢と変化
コロナの影響は対人支援分野における活動を激変させました。これまで理論も実践も対面前提であったわけですから、「対面禁止(自粛)」は、根底から活動を揺るがすものです。
もちろん、感染症対策を徹底しながら支援を継続していたところが多いでしょう。その一方で、インターネットを活用したさまざまな取り組みも行われ、この1、2年で一気に広がった印象です。
育て上げネットでも、少しずつプログラムのオンライン化を広げるなかで、一回の講座に全国から若者が100名から500名参加することもあります。また、少人数に制限をしたオンラインのプログラムも当たり前のものとなってきました。
これまでの対面前提にオンラインが加わることで、若者が対面またはオンラインを選択できる環境が整い、そのときの体調や気分で参加の仕方を選択できることは、非常に有意な変化だと捉えています。
2020年4月から12月では、約1,000名が相談やプログラムに参加されましたが、「働く」というゴールに対しては、対面もオンラインのどちらでも、大きな差異はありませんでした。むしろ、自宅にひきこもり状態の若者が、そのままリモートワークでフルタイム就労をしたり、ネットを使って仕事を始めてみられるなど、ポジティブな変化もたくさんありました。
改めて交通費がボトルネックに
私たちの社会が有する孤立・孤独というテーマが、社会課題として語られるようになりました。居場所の設置や、相談支援の拡充、地域連携の推奨などさまざまな声があがっています。そのどれもが大切ですが、改めて交通費など「実費負担の原則」がボトルネックになっています。
これまで「実費負担の原則」は、当然のように受け入れられてきました。参加費や無料でも、現地までの交通費は自己負担であること、教材テキストは別途お支払いください、というのが当たり前という認識です。
実際にはそれがとても苦しいものであっても、「当たり前」である認識が、誰かの苦しさに対してイメージすることを妨げていた部分があるように思います。
緊急事態宣言が解除されて、就労支援プログラムである「ジョブトレ」に通いたいという若者が増えてきています。これまでオンラインや、相談だけは対面ということから、自宅を出て居場所に(やっぱり)通いたいというニーズです。
ジョブトレは有料のプログラムですが、個人や企業の寄付などによって、無料枠を設けています。経済的に厳しい若者が増え、家庭も余裕がなくなったことで、無料枠を希望するひとたちが大変多いです。
それに加えて、通うための「交通費」が大きな課題として、改めて浮上しています。自宅から電車に乗って、育て上げネットのある場所に往復する交通費。職場体験やインターンシップ、各種イベントに参加するための交通費、実費。
これまでも必要な若者に交通費の支給をしてきました。しかし、希望される若者の数は増え、また、遠方からでも通いたいという場合、月額の交通費だけでも数万円になります。通いたいけれど通えないというなかで、オンラインで満たせるニーズばかりではありません。
寄付者に対しても交通費の部分をお願いしてきましたが、コロナのダメージは大きく、無料枠と交通費負担はほとんどセットのような状態になっています。
育て上げネットでは、交通費など「実費負担の原則」の範囲に入る部分を切り出し、若者が就労に向かうためのサポートができる取り組みを設計・準備をしています。交通費を捻出するために食費を削ることや、職場体験・インターンシップを断念する若者をひとりでも減らしていくチャレンジをしていきます。
「実費負担の原則」という原則が過去のものになるよう、多くの方々のご協力をお願いいたします。
過去には公的事業を変えたことも
育て上げネットのミッションは「若者と社会をつなぐ」ことであり、社会の側が若者にとって変化すべきアクションも行っています。交通費等の実費負担についてはこれまでもさまざまなチャレンジをしてきました。
今回以降も、私たちが若者に交通費を付与するだけで終わらせるのではなく、その成果を国や自治体に届け、実費負担に悩むことがない社会にしていきます。
就職氷河期世代に対してとなりますが、政府の「就職氷河期世代支援に関する行動計画2020」において、交通費部分を公費で賄えることが実現しています。実践と実情、成果や効果をしっかりと社会につなげてまいります。
※オンラインを活用した伴走型支援やゲームのプロの競技となっているeスポーツを新たな就労機会と捉える、という箇所も実現しました。
育て上げネット
理事長 工藤 啓