生活・生命の確保と、「働く」の実現
コロナ禍の影響から「働く」が遠くなり、家族との関係がうまくいかなくなっている若者が増えています。もともと虐待要因があるような若者だけでなく、これまでは比較的良好であった家族関係も、保護者のストレスが「働けない」「収入が低い」子どもに向かってしまっています。
そのようなケースでも、保護者と住まいを共にする以外の選択肢を持たない若者たちにとっては、耐え忍ぶしかありません。気晴らしの外出機会も限定され、育て上げネットに来る時間だけが救いと言う声も聴きます。
独り暮らしや見知らぬひととのシェアハウスで住まいを確保していても、収入減少などで生活が不安定になっています。育て上げネットは、そのひとに合った「働く」をともに考え、その実現のために行動する「伴走支援」を大切にしています。
そのため「働きたいけれど働けない」若者たち、その声が集まりますが、生活や生命を脅かされているケースも入ってきています。生活を支え、働くを実現していく活動において、多くの方々からのご寄付が生命線とも言えます。
上段に掲載している「solio」のような外部寄付サイトや、法人の寄付サイトからのご寄付をどのように活用させていただいているのか。今回は現場で若者のために活かされているのか、いくつかの事例をご紹介します。
(育て上げネットへの寄付はこちらからお願いしております)
現場でのどのように運用されるのか
ご寄付は法人活動を支えてくださる本当に大切で、ありがたいお金です。できるだけインパクトの大きいものや、新たなチャレンジにも使わせていただいておりますが、現場においては、現場の職員が「その若者」のために使えるような枠組みを作っています。
緊急性の高いものは都度判断(事後報告)となりますが、通常は現場の職員から「こういう若者がいるため、〇〇をやる必要がある」「若者から希望の声がありました。その実現のために××をやってみたい」という形で声を集めます。
原則的に、それが効果が生まれるものかどうかで判断するよりも、職員と若者が一緒に話をしたものなのでやってみるスタンスを取っています。すぐに「働く」につながるかどうかはわからないけれど、何か若者にとってきっかけになればよいですし、ならなければ他のことだったのかもしれないと、次は何をしてみようかと考えるようにしています。
お金、交通費、食糧
コロナ禍で、生命や生活に直結する課題を抱える若者に対しては、食糧やお金を送ることがあります。直接的な現金授受が難しいケースの場合は、現金以外の手段を使います。
これまでは相談やプログラム利用にかかる交通費ニーズが最も高くありましたが、この一年半は、食糧やお金を渡す必要性が高まっています。
ただ、若者たちに限りませんが、食糧やお金を受け取ることに躊躇する。もっと言えば、食糧やお金が必要であることを声にすることができないことがあります。
明らかに体調が悪そう、ご飯を食べられていないのではないかという若者でも、声をかければ「大丈夫です」と返ってきます。本当にひっ迫するギリギリの段階では、「(まだ)大丈夫です」という声でもあります。
これまで大丈夫ではない状況で、周囲や大人に助けの声をあげても、何か具体的に解決につながらなかったり、自分が悪いかのような言葉を投げかけられ続けてしまうと、何も期待してない、これ以上傷つきたくないことから「大丈夫です」が出てきます。
食糧やお金はとてもわかりやすく、現状の維持改善に直接的な影響を与えやすいのですが、受け取る、受け取りたい側にも自尊心があります。ここを大切にしながら、何とか大丈夫でない状況を脱出する、もうダメというところまでいかないようにするには工夫が必要です。
ある職員は、誰でも食べていい、自分のため、家族のために持ち帰ってもいい食糧に対して、「そろそろ賞味期限が切れてしまうから食べてもらえないか」「悪くなってしまうともったいないので持ち返ってくれないかな」と声をかけるようにしていると言います。
ご自由にお取りくださいではなく、食べてくれると、取ってくれると助かるというスタンス、声掛けをすることで、若者たちや子どもたちが動きやすくなり、その動きのなかに、さまざまな感情を持っていても手に取ってくれるようになります。
外の世界を歩いてみたい
長期に渡って自宅、自室から出ることができない。外出する機会がないままに何年も経った若者もいます。コンビニではセルフレジという見たこともないものが設置されていたり、以前はよく足を運んでいたお店や場所が変容していたり。数年単位で社会との接点、外の世界とのかかわりが失われると、こんなことでやっていけるのだろうかと不安になります。
ひきこもり状態であった若者だけではなく、少年院などから出院してきた少年も、一年近く外の世界と隔絶され(インターネットもなく)ていると、入院前に暮らしていた世界と、出院後に生きていく世界の狭間で、不安が高まります。
ある若者と市内を散歩、散策する機会を作りました。貯金もお金もなければ歩くだけになってしまいますが、社会の「いま」を少しでも経験することで、何か変わるかもしれない。職員と若者が話し合って、ひとと話す、かかわるところはまだ不安。であれば、その若者がずっと昔に遊んだことのあるゲームセンターに行こうということになりました。
ゲームセンターは、何かプレイするのにお金がかかります。ゲームをしたから何かが変わるのかと思われるかもしれません。実際に少しゲームをしてみることで、変わることもあれば、何も変わらないかもしれません。
それでもその若者がやってみたいという声を伝えてくれたことを実現することが、何かのきっかけになるかもしれない。だから一緒にやってみよう、そのためのお金を寄付から出させていただくことがあります。
ちょっと遠くであれば交通費、お腹がすけば食事を共にすることもあります。若者と職員の関係性が寄付によって結ばれる瞬間もあります。若者がちょっとやってみたいということに、すぐに「じゃあ、やってみよう」という反応と行動が、「このひとなら信頼して悩みを打ち明けてもいい」ということにつながります。
学びを仕事につなげる「間」に
対面およびオンラインを通じて、育て上げネットで職業スキルを習得する若者たちの学びが仕事にすぐ結びつくわけではありません。
特に実務経験や業務ポートフォリオ(職歴・作業歴)がないと、具体的に何ができるのか。どのようなことを仕事にしてみたのかを、採用担当者などに見せることができません。
この学びと仕事の間の「実務経験」は採用担当者のみならず、若者自身にとっても身に着けたスキルが本当に生かせるのか、どのくらいの仕事量であれば、どれくらいの時間や緊張感で終わらせられるのかがわかりません。
わからないと不安になります。
インターンシップはひとつの形ではありますが、それ以外に育て上げネットでは、習得スキルを活かすことに、謝金という形でご寄付などから費用をお支払いしています。それが法人内から切り出した仕事であったり、地域の方々のためであったり、理解してくださる個人や企業から「業務的なもの」を出していただき、発注者側に立っていただくこともあります。
学びと仕事の「間」に、誰かから依頼された業務をこなすこと。それに対してお金が発生する経験は、若者に自信だけではなく、その業務をこなすにあたってどれくらいの力と時間が必要なのか。現時点で不足する知識や経験はなにかの理解を助けます。
また、実際に納品するものですので、就職活動や仕事を得る際に「自分はこういう仕事をしたことがあります」と実務経験としての「仕事」を見せることにつながります。
このような「間」をつなぐにあたって、ささやかではありますが具体的なクライアントの存在と、お金が発生することによって、若者が練習ではなく本番実践的な経験を獲得することにつながっています。
実際、これらの一例に留まらず、生命や生活の危機に対応するものから、仕事をするにあたって準備しなければならないもの(証明写真、スーツ、就職活動費用など)にも、必要に応じて寄付をあてさせていただいています。
育て上げネットという法人にいるすべての職員が、その業務・活動において必要なとき、みなさまからのご寄付があることで、制約を取り払い、柔軟に、「その若者のために」「その子どものために」、一人ひとりのために動くことができます。
私たちの未来を創る、たくさんの若者、子どもたちが苦境にあります。そして、苦境にかなり近いところで「(まだ)大丈夫」と言っています。一緒に若者たちの未来を創ってくださる仲間になってください。
ジャンル型寄付サイト: solio
法人寄付サイト:https://www.kifukara.jp/form/sodateage/monthly/
育て上げネット
理事長 工藤 啓