全国で100万人を超える方が「ひきこもり」状態にあるという調査が今年の3月に発表されました。そのうち40~64歳以上の方が約61万人とされ、長いあいだ社会との接点を持てないでいる方が多くいることがわかりました。
今年は「就職氷河期」という言葉も再燃して、そうした方々への支援について大きく取り上げられ、国をあげたサポート体制が構築されつつあります。
そうした背景があるなかで、子どもの相談窓口「結」では、「ひきこもり」診療の世界的第一人者である斎藤環先生をお迎えし、今まさに、家族でお悩みを抱える方100名に講演をしていただきました。
今回は本講演に参加した結スタッフによるレポートです。
「対話」のための環境づくり
斎藤先生は講演の冒頭から最後まで「対話」という言葉を使い続けました。
「対話」といっても具体的にどういうことを指すのか、まずは「対話」ではない行為について、お話してくださいました。
「ひきこもり(不登校)」という状態にあるわが子を前にしたとき、「学校に行かせよう」とか「社会につなげよう」と考えたり、対処の方法がわからず「怒り」や「脅す」のような行動に出てしまうことも多くあります。
しかし、それは本人の状態に寄り添わず、こちらの希望を押し付けてしまっています。
まずやるべきことは子どもが本来持っていた「元気」を取り戻すこと。
そうすることで「対話」の実現につながります。
「元気」を取り戻すために重要なのは1.安全・安心、2.空間、3.時間です。長期化のために必要なことのなかに時間が入っているのは意外かもしれません。
斎藤先生は、家族の基本的な心構えは「安心してひきこもれる関係づくり」を作ること、子どもが自分自身の存在を承認された空間を作ることとしています。
すでに社会的に孤立をしてしまっているうえに、家族からも責められてしまうと世界中どこにも居場所が存在しなくなってしまい、社会参加につながる動機がなくなってしまいます。
「対話」とは?NG行動は?
ポイントは「否定しない」ことです。
否定するようなコミュニケーションには「議論」「説得」「尋問」「指導」「叱咤激励」のようなものが挙げられます。
「対話」とは、本人の言葉に耳を傾け「そのままでいい」「生きているだけでいい」「あなたのことをもっと知りたい」のような肯定的な姿勢として現れます。
「ひきこもり」を特異な状態と考える方もいますが、斎藤先生は「困難な状況にあるまともな人」であるから、そうした人には上下関係を作らないフラットな関係を構築するとよいとお話されていました。
お互い話していけば意見が異なることもあると思います。もしかしたら恨みつらみが表出するかもしれません。そのとき「違い」を正そうとするのではなく、その「違い」を深堀してその真意を見つめていくことが「対話」の姿勢なのです。
断絶状態なら最低限の積み重ねを
ここまで、少なくともコミュニケーションが発生するケースについて触れてきました。
現状、家庭関係が断絶して会話をすることができない場合は「挨拶」からはじめていくことを提案されました。
「挨拶」は”最低限の肯定”です。時間も回数もかかるかもしれませんが、積み重ねていくことでコミュニケーションを回復する必要があります。
「挨拶」ができれば「誘い」「お願い」「相談」などもしていくことができればなおよいでしょう。
「あきらめないこと」が肝要
ひとつひとつの挨拶にはレスポンスはないかもしれません。でも、粘り強く根気よくやっていくことでいつか双方向の動きが出て、信頼関係の構築につながります。それには1年かかることもあると思います。時間はかかりますが、いつか芽のでる種まきと思ってあきらめず続けてください。
「対話」の実現に向けて…
斎藤先生のお話は本当に多くの当事者の方と向き合い、まさに「対話」をされてきたからこその力強さを感じました。子どもの悩み相談窓口「結」でも、親子でのコミュニケーションについて本当に多く相談をいただきます。
「対話」の実現のために、おひとりで、ご家族だけで抱え込むのではなく、ぜひ、ご相談ください。