2019年12月23日
高校中退・不登校生徒の抱える悩みとは
就労支援に訪れる若者 2割が中退、4割が不登校の経験
若者支援の現場では、ひきこもりの若者や「働く」に困難を抱える若者と日々出会っているがその中には学校時代から不登校などの状況にあったり、学校を中途退学してその後のキャリアに難しさを抱えたりする人も少なくない。
例えば、育て上げネットの支援機関に来所する若者のうち、最終学歴が高校中退の人が占める割合は3.8%、専門学校中退は3.4%、大学等中退は10.9%、合計約18%が中途退学者である。(育て上げネット『若年無業者白書2014-2015-個々の属性と進路における多面的分析』)
より多くの支援機関を対象にした調査では、来所者の4割もの人が過去に不登校経験があると回答している。(宮本みち子「若年無業者と地域若者サポートステーション事業」,2015)
そこで、まず本稿では中退・不登校の現状について基本的な情報・データを整理し、続く記事で「その後」の就職等への課題や、課題への一つの処方箋を紹介する。
中退・不登校についての調査としては、毎年文部科学省により全国全ての小・中・高等学校に対して行われている『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』がある。そのうち、特に就労支援との関わりの強い高校生について、以下で見ていく。
なお、大学等(大学・短大・専門学校・高専の専門課程)の中退とキャリアの問題については、『大学等中退者の就労と意識に関する研究』(独立行政法人 労働政策研究・研修機構,2015)に詳しいため、本稿では高校生に限定して紹介する。
『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』の概要
本調査は小・中・高校の児童・生徒の暴力行為・いじめ・不登校・自殺等の状況等について、学校や教育委員会に対して調査を行っているものである。
毎年度実施され、実態把握を行うことにより、児童生徒の問題行動等の未然防止・早期発見・早期対応を行うこと、また不登校児童生徒への適切な個別支援につなげていくことを目的として実施されている。
その調査結果が、10月17日に発表され、特にいじめ認知件数の増加について、多く報道がなされている。
ここでは本調査のうち、その後社会とのつながりを失う大きなリスク要因となりうる高校生の「不登校」と「中途退学(中退)」についての調査結果を紹介する。
高校生の不登校 -年5万人の不登校-
高校生の不登校は、長期的には横ばいだが、ここ数年は増加傾向である。毎年5万人前後が不登校状態を経験している(年を跨いで不登校状態の生徒を含める)。
なお、本調査における不登校とは、「年度間に連続又は断続して30日以上欠席した生徒のうち、何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし,「病気」や「経済的理由」による者を除く。)」をいう。つまり、長期欠席者のうち、病気・経済的理由などの明確な理由が分からないほぼ全ての生徒のことを指す広い概念であると言える。
無気力・不安な状態 / 学業不振・対人関係・家庭問題を抱える人が多い
そんな広い概念である「不登校」の要因については、本人に関する要因を一つ回答し、加えて学校や家庭に関する要因を複数選択可で回答する形で調査されている。不登校生徒本人への調査ではなく、学校側の回答という点に注意する必要があるが、結果は以下の通りである。
本人の状況としては、無気力、不安の状態にあるという回答が多い。
また学校・家庭の状況については、友人関係の問題、学業不振、家庭の問題が多く挙げられている。
不登校については以前から政策的な議論も行われており、最近では10月25日付けで文部科学省から、各学校現場に対して、「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」との通知が出された。不登校に対しては、『「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること』が明記され、フリースクール等学校外の機関との連携が重視されている。
高校中退 -年5万人の中退-
中退は、ここ20年は数としても割合としても減少傾向だったが、平成29年度から30年度で微増した。こちらも不登校同様に、毎年5万人前後の生徒が高校を中途退学する。(なお、中途退学後に別の高校に編入した者は数に含んでいるが、いわゆる「転校」した者は数に含まない。)
そもそも在校生徒数の多い全日制課程において中退者の数は多いが、課程別在校者数に占める割合としては定時制・通信制高校の中退がやや多い傾向にある。
なお、高校中退については、令和元年11月29日閣議決定の「子供の貧困対策大綱」にて、将来の貧困を防ぐための重点課題として挙げられており、モニタリングのための指標にもなっている。
但し、中退のすべてが「問題」として捉えられるものではなく、進路変更やより自分に合った高校選び等様々な事情がその背後にあることを押さえておく必要がある。以下に中退の理由について調査結果を見て行く。
中退の背景にあるもの
中退の理由としては、多い順に①進路変更、②学校生活・学業不適応、③学業不振であり、それらで全体の約8割を占めている。
ただし、先に述べたとおり、本調査は学校側が回答しているものである。
中退した本人に聞いた調査としては、『都立高校中途退学者等追跡調査』(平成25年)も合わせて見てみよう。
なお、下記の調査は東京都立高校に限定された範囲のデータである点、中退の理由を直接聞いているのではなく、「退学時にどのような状況だったか」を聞いている点に留意する必要がある。
グラフから、「遅刻や欠席などが多く進級できそうになかった」、「通学するのが面倒だった」、「精神的に不安定だった」という回答が多いことが分かる。
これらの項目は、何かしらの要因で「不登校」状態になり、その後「中退」につながるという流れが一定存在していることを示唆しているとも言える。
また、回答結果からは、いじめ、貧困、病気・障害、家庭問題(虐待/家族の病気・介護・世話等)等、中退という結果に影響した様々なバックグラウンドが想像される。
大人が仕事を辞める時と変わらず、高校生も色々なものを抱えている。そういった中で、一定数がネガティブな気持ちや態度で高校を中退していくことがうかがえる。
では、不登校・中退に際して、生徒は誰に相談しているのか、または相談していないのか、その現状についても、調査結果を紹介する。
相談体制・相談先
不登校については、当該生徒が学校外(教育委員会、教育支援センター、病院、NPO等)で相談しているかどうか、学校内では相談・指導しているかどうかについてそれぞれ人数がまとめられている。
その結果を見ると、学校外での相談状況について学校も把握できていない部分があり(不登校生徒の学校外での相談状況「不明」という回答が10%ほどある。)、その一方で学校内での相談・指導が図られていることが見て取れる。
中退時の相談状況については、『都立高校中途退学者等追跡調査』に詳しく、誰に相談したかを細かく聞いている。
高校中退について、母親に相談した人が圧倒的に多い。その一方で、誰にも相談しなかった人も2割ほどいる。
最も身近な存在として、家族に相談する人が多い結果ではあるが、家族の病気など家庭の問題を抱えている場合には、相談が難しいケースもあるであろう。「誰にも相談しなかった」と回答した人の中にはそういう例もあるだろう。
以上、調査結果から、①年間約5万人ずつの高校不登校・中退者がいること、②その中には当然ネガティブな状態の生徒も多いこと、③生徒の状況を学校側で全て把握できているわけではないし、④学校含めて誰にも相談できない、していない生徒もいることを見てきた。
これらの状況のまま、中退、不登校になってしまったとき、「その後」はどうなってしまうのか、次回の記事で見ていくことにする。
(執筆:育て上げリサーチ)
育て上げネットでは、若者の問題を個人的問題に帰結せず、社会全体で解決すべきであるという認識を広め、セクターを超えた課題解決のための担い手を増やすことを目指しています(若者支援の「生態系創出」と呼んでいます)。
その一環として、当サイト「育て上げリサーチ」では、若者の現状や若者就労支援について、データに基づく情報を広く一般に届けることで、より多くの人に若者の問題やその支援について関心を持って頂きたいと考えています。そのため、普段若者の支援に関わる方のみならず、「広く社会課題に関心がある」「若者を取り巻く環境を知りたい」といった市民・企業・行政・大学等研究者の方々も読者として想定しています。